昴との約束
今日の帰りはすごく寒かったです。駅を降り、遮断機を通過する電車を待つ間が特に寒かった。車の暖房が十分効く前に車を出発させ、本日15時に出来上がり予定の昴の大判写真をカメラのキタムラへ取りに行くため車を走らせていると、昴とナイター練習へ向かう車内での会話を思い出してしまいました。寒い日は思い出すんですよね。
ちょうど1年前ぐらいの今日のように寒い夜でした。
その日の直前、昴との直接の会話だったか、妻から聞いた話だったのかよく覚えていませんが、昴はバッティング練習のことで不満を漏らしていました。その当時、週に2回、私は昴とナイターの自主練習に行っていました。私は昴のバッティングの迫力に魅了されていて、昴はその頃すでに打球の飛距離を相当伸ばしていましたが、私はこの子の打球の飛距離をもっともっと伸ばしてやりたい、こじんまりとしたアベレージヒッターになるんじゃなく、思いっきり豪快に振って芯に当たったときは即さく越えホームラン!という規格外の長打力が自慢のバッターになっていってほしかった。昴には、4人の兄ちゃんたちにはない長距離砲になれる素質が十分にあると感じていました。だから、自主練のときも、1球1球目いっぱい振らせ、フルスイングしながらバットの真芯に当てる練習をしていました。それは、軟式だった笠間クラブ時代から続けていたことでした。
ところが、指導者によっては私と異なる表現でバッティングの指導をされることがたくさんありましたので、昴自身、どの指導者の指導方法を取り入れればいいのか悩んでいたようです。それが昴の口から出たんでしょう。
それを聞いた私は、昴と菰野の夜間練習場へ向かう今と同じ軽自動車の中で、後部座席の昴に話しかけました。
「昴、バッティングに迷いがあるみたいやね。」
「指導者によって言うことが違うもんで・・。誰の指導を受け入れればええのかわからん。」
「そうか~。」
「父さんはな、昴はすごい長打力のあるバッターになれると思っとる。だから、笠間クラブの頃から、常にフルスイングして真芯で打ち返す練習をするよう言い続けてきたよね。母さんから、昴は勉強があまり好きじゃないって聞いとる。父さんは昴の親やで。昴の将来のことはいつも考えとるんやで。昴がどんな道に進んでいったらええのかをね。だから、昴は、将来野球で生きていけるような選手をめざそう。もっともっと長打力に磨きをかけて、大阪桐蔭がぜひ来てくださいっていうぐらいのすごいバッターになろうぜ。いろんな指導者の指導を受けることは悪いことじゃない。その中で、これはっていう指導があったら、それを取り入れたらええだけや。今はフルスイングしてもいつでも真芯に当てれる練習をして、周りからびっくりされるような強い打球を打てるように練習を続けていこ。」
私は昴に、そんな話をしました。
昴は黙って聞いていましたが、最後に「うん。」とだけ言ったことを覚えています。
その日から、昴の私とのバッティング練習に対する姿勢が変わったこともよく覚えています。
二箱のトスバッティングの中で、1球も手を抜かなくなった。だから私も、1球1球、フルスイングする昴を思い切りほめてやった。すると、みるみるうちに、古い硬球を打ち返す瞬間の音が激しさを増していきました。確かに二箱打ち終わるまでの時間は長くなりましたが、昴が打ち返す硬球の音を心地よく聞きながらトスを上げるその時間が、私にとってはすごく幸せな時間でした。すごく寒い時期でしたけど・・。
まさか、その1年後に昴がいないとは、まったく想像していませんでした。
だから、大事な家族には、その時その時で最高の愛情を注いであげてください。